2019/10/31 超歌手大森靖子2019 47都道府県TOUR"ハンドメイドシンガイア"@札幌ペニーレーン24

“超歌手”大森靖子さんが今年6月から行っている全国47都道府県ツアーの46公演目である北海道・札幌公演を観に行ってきた。僕はこれで大森さんの47都道府県ツアーに行くのは16公演目であり、ちょうど3分の1を超える数だ。そんな中で今回の札幌公演は個人的に47都道府県ツアーにおけるベストライブだったので、ライブの前後の出来事も含めて感じたことや考えたことを記録に残しておきたいと思い、このブログを書いている。半分は極私的な日記のつもりで書いているので、適宜読み飛ばしてもらえればと思う。

札幌公演は平日真っ只中の日程だったため、僕は公演当日と翌日の2日間の有休を取った。僕はこの秋から勤め先で管理職に昇進し、昨今の働き方改革のしわ寄せが管理職に来ていると話に聞いていたとおり、日に日に仕事が増えて忙しくなっていくのを感じている。僕は一時期、現場に行くペースを落として仕事に専念することも考えたが、やはり現場と仕事を両立させたいと思うようになり、現場に行く時間を確保するために結果として今まで以上に仕事に集中力と気力を注ぐようになった。そうして現場と仕事の両立を図ろうとしていたことが思いのほか体に負担をかけていたのか、札幌遠征の直前になって急性扁桃炎にかかってしまった。振り返ってみれば10月だけでも東京の現場に加えて仙台、岩手、秋田、山形、京都へ遠征に行っており、体力に自信はある方だがさすがに疲れが溜まっていたようだった。ただ、これから仕事が忙しくなれば今までより平日に休みを取ることは難しくなるだろうし、47都道府県ツアーのセミファイナル公演ということもあり、やはり観られるうちに観ておきたいと思い遠征することにした。 

札幌公演当日、朝5時台の電車で空港へ向かった。空港へ着くと同じ大森さんファンのふるぱちさんに会った。ふるぱちさんとは今回のツアーで何度か遭遇することがあり、そのため度々話す機会もあったので、人見知りの僕が今回のツアーを通じて以前より無理なく接することができるようになった一人だ。

新千歳空港には9時過ぎに到着した。以前に新千歳空港で買って大森さんのライブに差し入れで持って行った“びえいのコーンぱん”が、後日美マネ(大森さんの美人マネージャー山本さんの通称)から好評だったという話を聞いたので、今回も買って行こうかと思いお店に行ったところ、タイミングが悪く焼き上がりの時間までかなり待たなければいけないようだったので諦めることにした。

続いて大森さんのマスコットキャラクターのナナちゃんでお馴染みのシュタイフショップへ行った。新千歳空港へ来た際には毎回立ち寄っており、特に何も買うつもりはなかったが、何気なく店の奥にある限定品などが陳列されたガラス張りのショーケースを見ていたところ、ふと2体の白いクマのキーリングが目に止まった。クマは2体とも鼻が赤く、それぞれ赤い封筒と白い封筒をぶら下げていて、キーリングの金具部分のパーツもハートの形をしていて可愛かった。それを見た瞬間に、大森さんと前回のクソカワPARTYツアーから登場したナナちゃんのゆるキャラ、ゆるナナちゃんにプレゼントしようと思い、購入を即決した。赤い封筒のクマはツアーファイナルとツアー終了後に声を治すのがうまくいくようにというお守りとして大森さんに、白い封筒のクマは少し早いが47都道府県ツアー完走のお祝いとしてゆるナナちゃんに渡すことにした。

相変わらず体調は優れなかったが、そんな時でもお腹は空くようなので新千歳空港からJRで札幌へ行き、さらに地下鉄に乗り換えて行った北24条駅の近くにあるタイガーカレーというお店でスープカレーを食べた。土鍋で提供されるので気を付けないと火傷をする熱さだったが、スープも具のチキンと野菜もとても美味しかったので、機会があればまた訪れたい。

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それから再び地下鉄を乗り継いで宮の沢にある石屋製菓白い恋人パークへ行き、そこで元々ゆるナナちゃんへプレゼントすることを考えていた白い恋人のオリジナル缶を作った。

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予定していた用事を済ませたのでホテルへチェックインし、後は少しでも良い体調でライブを観るために部屋でゆっくり過ごしてから、会場であるペニーレーン24へ向かった。

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18時過ぎに会場へ着くと既に入場を開始していたが、僕の番号はまだ呼ばれていなかったので会場横の駐車場で待とうとウロウロしていたところ、栃木の千裕さんとばったり会った。会うのが久しぶりだったのと、まさか札幌で会うとは思っていなかったので驚いたが、近況を聞けたのと元気そうな姿を見られたので良かった。会場へ入ると既にフロアの前半分はぎゅうぎゅうに詰まっている様子で、北海道の大森さんファンの熱心さが伺えた。僕はフロア後方横の壁際でもたれかかって観ることにした。ペンライトをホテルの部屋に忘れてきたことに気付いたが、今日はペンライトを振らない分のエネルギーをライブの観察に充てようと思った。

ライブは開演時間の19時から少し遅れて開始した。時計を見ると19:07、ナナ時ナナ分だった。今回のツアーですっかり定着した道重さゆみさんの“ラララのピピピ”のSEで、まずはバンドメンバーが登場した。この日のバンドは新🌏z(シンガイアズ)編成で、G.畠山健嗣、G.あーちゃん、Key.sugarbeans、Hyper.サクライケンタ、B.えらめぐみ、Dr.ピエール中野(敬称略)というメンバー構成だ。そして最後にステージに入ってきた大森さんは、青いシースルー素材のトップスの上にきゅるきゅるの縷縷夢兎ワンピースという衣装だった。 

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この日のセットリストは以下のとおり。

Re:Re:Love

VOID

非国民的ヒーロー

ZOC実験室

JUSTadICE

Over The Party

7:77

ノスタルジックJ-pop(sugarbeansピアノ伴奏)

family name(sugarbeansピアノ伴奏)

M(sugarbeansピアノ伴奏)

シンガーソングライター(ギター弾語り)

あまい(ギター弾語り)

きもいかわ

死神

流星ヘブン

君に届くな

マジックミラー

TOKYO BLACK HOLE

LOW hAPPYENDROLL--少女のままで死ぬ--

オリオン座(合唱アンコール)

ミッドナイト清純異性交遊

絶対彼女

 

この日は1曲目から大森さんがハミングバードを持って“Re:Re:Love”でライブがスタートし、続く“VOID”で一気に会場のボルテージが上がるのを感じた。ここ最近のライブでは“Re:Re:Love”と“VOID”が続けて演奏されることが多く、この二曲は銀杏BOYZ峯田和伸さんという共通項もあり今となっては兄弟のような関係性を感じる。3曲目は“非国民的ヒーロー”で、ギターを置いた大森さんはステージを縦横無尽に動き回り、観客との距離をぐっと縮めてくる。間奏ではまだ3曲目なのに体力を温存する気はさらさらないと言わんばかりに全力で踊っていて、その姿に目が釘付けになった。

“非国民的ヒーロー”が終わると最初のMCがあり、今日は46公演目のセミファイナルで、このツアーでは地元のどうでもいい友達、忘れてしまった恋人、あまり好きじゃない家族、何とも思っていない妻や夫とか色々いると思うけど、北海道はそういうことを私が歌いに来るまでもなく伝えてくれる人が多いので、今日は熱い熱いものを受け取って熱い熱い歌を歌う準備が万端で、46公演目に相応しいライブができると思って札幌に来た、といった話をしていて、観客から大きな歓声が上がっていた。その歓声を聞いた時に、きっと地元の人達にとっては、好きなアーティストが自分の地元にライブをしに来てくれて、自分の地元の話をしてくれるのは何より特別なことなのだろうと思った。大森さんも地元の愛媛に銀杏BOYZが来た時の話をしていたことがあったが、そういうことなのだろう。そして、その特別を日本中に余すことなく届けることが47都道府県ツアーをやる一つの意味なのだろうし、大森さんがこの半年間で届けてきたもの、受け取ってきたものは僕には想像が及ばないほどの膨大さなのだろうと思った。

MCを終えて今ではすっかりZOCのテーマソングともいえる“ZOC実験室”でライブは再開した。この日も大森さんのダンスは冴え渡っていて、観客との掛け合いが会場全体の一体感を高めていた。以前から大森さんのライブにはアイドルライブの要素があったが、ZOCが始動してからはよりアイドルライブのノリが加わって、良い相乗効果を生んでいるように感じる。そして、この後の“JUSTadICE”と“Over The Party”が、いずれも僕が今回のツアーで見た中でベスト級のパフォーマンスで、この日のライブの一つ目のハイライトだった。大森さんはこの辺りから完全に軌道に乗ったように感じた。ここで、この札幌公演が凱旋ライブとなるナナちゃんのMCが入り、登別のクマ牧場の話や“いってみたい”北海道のバンドマンの話など、ご当地ネタで観客を沸かせていた。それからゆるナナちゃんをステージに呼び込み、ナナ曲目となる“7:77”を披露した。

ここまでストレートに盛り上げてきた序盤のセットリストを終えると、大森さんとsugarbeansさん以外のバンドメンバーが一旦退場し、sugarbeansさんによるピアノ伴奏のパートに入った。このパートでは“ノスタルジックJ-pop”、“family name”、“M”の3曲が披露されたが、これがこの日のライブの二つ目のハイライトだった。“ノスタルジックJ-pop”は胸が締め付けられるような、大森さんの慈しむような歌い方が感動的で、“family name”は大森さんの優しさ、悲しみ、怒り、祈りがないまぜになったような感情の込もった歌声を、sugarbeansさんのピアノが引き立たせていて美しかった。大森さんは度々sugarbeansさんに対する絶対の信頼を口にしているが、このパートにおけるsugarbeansさんの演奏はそれを頷かせる素晴らしいものだった。その後のMCで大森さんは、この5年間どういう想いで音楽活動をしてきたかについて赤裸々な想いを吐露していた。大人になるということ、その中での私とあなたとの関係、音楽に懸けてきた5年間について語り、最後に「全ての人は可愛くて、格好良くて、美しくて、神聖である。それを大前提として、私たちは神様で、大きなものを作って、それを美しいと思う心を5年間積み重ねてきたということを、この友達にもらった手紙で作った曲を歌う度に思うのです。」と言って“M”を歌った。歌う前のMC自体がもはや一つの作品のようだったが、そのMCでの想いを載せた大森さんの歌声はこの世の全ての孤独や哀しみを背負っているかのようで、僕が今まで観た中で最も壮絶なパフォーマンスだった。

それから大森さんのギター弾語りパートとなり、“超歌手”と名乗り始めてからナタリーとかNHKとかで“超歌手”と向こうの方から書いてくれるようになって嬉しい、自分の名乗りたいものを名乗ることが一番いいと思っている、というMCをしていた。そのMCの最中に大森さんがスマホを持って何やら操作しており、僕は「何かレア曲でもやるために歌詞を探しているのかな?」と思った。すると大森さんが誤ってメモを消してしまい一瞬騒然となったが、“最近削除した項目”に残っていて事なきを得るという一幕があった。気を取り直した大森さんが「シンガーソングライターという新曲」と言って、新曲“シンガーソングライター”を披露した。一聴した曲の印象を強いて例えれば“VOID”と“family name”と“朝+”を足して3で割ったようなイメージで、歌詞は風景を描写している部分とメッセージ性の強い部分があり、恐らく大森さん自身が息苦しさを感じてきたのであろう「シンガーソングライター」という思考停止したカテゴライズに対するアンチテーゼが込められているように感じた。サビの「生きさせて、生きさせて」「狂わせて、狂わせて」といった言葉の繰り返しが特徴的だが、その他の部分もかなり面白い言葉選びをしているように聞こえたので、早く歌詞カードを見ながら聴いてみたいと思った。そして間を空けずに“あまい”を歌い、ギター弾語りパートは終了した。

ライブ後半はsugarbeansさんのピアノ演奏から始まる“きもいかわ”でスタートし、ここからがこの日のライブの3つ目のハイライトだった。“きもいかわ”は大森さんの感情表現力が遺憾無く発揮される曲だが、この日は特に歌声や体の動きの一つ一つに対する集中力が素晴らしく、いつもよりたっぷり間を取って一節一節の歌詞を噛みしめるように歌っていた。その次の“死神”も引き続き驚異的な集中力で歌っていて、その気迫は今まで観てきた中で一番だったかもしれない。そして、あなたの死にたいという感情の先に現れる扉を開けた時に私が手を広げて待っていられたらと思う、と願いを込めて歌った“流星ヘブン”では、全身にピンクのマイクケーブルを巻きつけていて、それが大森さんの血管のようにも大森さんを縛り付ける拘束具のようにも見えた。続く“君に届くな”では大森さんは完全にゾーンに入っていて、大森さんと歌が同化しているような、大森さんが歌そのものになっているようだった。語り部分の感情表現は何かが取り憑いたようで常人離れしていて思わず息を呑んだ。

ここから大森さんが再びハミングバードを手にして“マジックミラー”を歌い、終盤ではハミングバードを裏返して頭上に掲げ、ハミングバードの裏面を鏡に見立てて観客の方へ向けていた。そこには僕の位置からも観客が掲げるピンクのペンライトの光が映り込んでいるのが見えた。“マジックミラー”がクライマックスを迎えると大森さんが所々言葉にならない言葉を叫び、そのまま“TOKYO BLACK HOLE”へなだれ込んだ。その演奏は雲のかかった空を晴らしていくような清々しさがあり、僕は聴きながらすーっと魂が浄化されていくような感覚を味わった。“TOKYO BLACK HOLE”が終わると大森さんは「どんなに現実と心がはぐれそうになっても、私の手作りの希望がどんなに絶望じみていて、誰の幸せと一致しなくても、何度でも作り直すべきだ、これがかけがえのない私だけの人生だから、何度でも」と言って本編最後の“LOW hAPPYENDROLL --少女のままで死ぬ—”を歌い、ライブ本編は終了した。

観客が入場時に配られる歌詞のプリントを見ながら合唱する“オリオン座”の後、アンコールは“ミッドナイト清純異性交遊”で始まった。個人的にこの曲を聴くのは9月の仙台公演以来だったので久しぶりに聴けて嬉しかった。そしてラストの“絶対彼女”では、もう一つのバンド編成である新⚫️z(シンブラックホールズ)のメンバーであるカメダタクさんが札幌出身ということで、急きょ飛び入り参加してsugarbeansさんと並んで演奏したり、大森さんがノリの良い北海道の観客と楽しそうにコールアンドレスポンスをしたりして、大いに盛り上がった。大森さんは曲の終盤で「あなたの嫌いなあなたは私の音楽が愛しています!あなたの好きなあなたのことを思い切り愛してあげてください!」と叫んでいた。最後にメンバー紹介をして、拍手喝采の中この日のライブは終了した。

この日の大森さんは僕からは見えない苦労もあったのかもしれないが、かなり思い通りに声を出すことができていたのではないかという印象だった。大森さんのパフォーマンスはライブ全体を通じてエモーショナルだったが、それは声の調子が良かったことで感情表現に意識を集中させることができたからかもしれない。セットリストとしては新曲の“シンガーソングライター”がサプライズだったが、それ以外は今回のツアーで比較的多く演奏されてきた楽曲と曲順による盤石の構成だったのも、完成度の高いライブになった要因ではないだろうか。東京のファイナル公演もこのセットリストでいいのではないかと思ったほどだが、セミファイナルにしてあれだけ集大成感のあるライブだったことから察するに、札幌公演は仮想ファイナル公演だった可能性も考えられる。もし東京公演がこの日のライブと同様のセットリストでも楽しみだし、全く別のセットリストになるのも面白い。いずれにしても東京ファイナルがこの札幌公演の勢いを受けてどのようなライブになるのか、俄然楽しみになった。

終演後、物販に並んでグッズを買ってから、ゆるナナちゃんにシュタイフのキーリングと白い恋人の缶、そしてツアーが終わるとしばらく会えなくなるかもしれないこともあり書いてきた手紙を渡した。プレゼントを一つ一つ説明する度に全身で喜びを表現してくれてかわいかった。

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その後の大森さんとのチェキ会では、大森さんとカメラマンの二宮ユーキさんが前述した差し入れの“びえいのコーンぱん”の話をし始めて、僕の話す時間が無くなってしまうのではないかと思って焦った。そこまで気に入ってくれていたのであれば今日も頑張って買ってくればよかったと思ったが、きっとまた大森さんは札幌にライブをしに来るし、僕もまたそのライブを観に来るだろうと思うので、その時こそ差し入れに買っていこうと思った。きちんと僕が話す時間も確保してくれて、大森さんにシュタイフのキーリングを渡すと、その場で箱を開けて「かわいい…!」と喜んでくれたので嬉しかった。去り際にふと思いついてまだ頭の中でまとまっていなかったライブの感想を伝えた。内容はともかく良いライブだと思った気持ちを直接伝えられたので満足だった。

会場の外では、しっぽさん、みなさん、ふじむさん、けんけんぱさんといった北海道の大森さんファンと会った。短い時間で他愛もないことを話すだけだが、一年に一度でもこうやってお互い生き延ばして再会できるのはとても嬉しく、人との距離感を掴むのが苦手な僕にとっては、もしかするとこうした地方の大森さんファンの人達の方が長く良い関係を続けていけるのかもしれないと思った。唯一ぼあだむさんにだけ会えなかったので、次の機会にはぜひ会いたい。

tataaaanさんが車で送ると言ってくれたので、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。車にはふるぱちさん、てまりさん、tataaaanさんの知り合いのさおさんが乗っていて、車中で全員お腹が空いたという意見で満場一致したので、皆でtataaaanさんが知っているお店に行くことになった。遅れて千裕さんも合流し、夜中の1時過ぎまで焼き鳥やおでんを食べながら色々な話をした。お会計でtataaaanさんが(かなり)多めに出してくれたので、もうtataaaanさんには足を向けて寝られないと思った。

 

ライブの翌日は早起きして行動展示で有名な旭山動物園へ足を伸ばそうと思っていたのだが、体調が万全でないのに加えて夜遅くまで飲んでしまったこともあり、結局ホテルを出たのはチェックアウト時間ギリギリだった。一度行ってみたかった“さえら”のサンドイッチとコーヒーで朝食兼昼食を済ませた。

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帰りの飛行機の時間までに小樽へ行ってみようかとも思ったが、一年前にも訪れたモエレ沼公園にもう一度行ってみることにした。昨年11月の大森さんのクソカワPARTYツアーの札幌公演の翌日、初めて訪れたモエレ沼公園はちょうど日が沈もうとしている時間帯で、しばらくすると電灯があるところを除いて辺りは完全に真っ暗になった。公園は闇と雪に覆い尽くされていて、雪道を進んでも自分以外には誰もおらず、雪を踏みしめる自分の足音以外には何も聞こえなかった。ただ、それを怖いと思うよりは、目の前に広がる光景が当時の自分の心象風景そのものだったので、安堵感や納得感すらあった。冬の夜のモエレ沼公園で「今倒れたら死ぬな」と思うと、自分一人で生きていかなければいけないと思ったが、それも死ぬのが怖いというよりは、その時は自分の人生に二度と朝が来ることはないと思っていたし、死にながら生きることの決心のようなものだった。僕は良くも悪くも一度こうと決めたらとことん突き進むところがあり、今振り返れば一年前もただひたすら闇へ闇へと向かっていたのだと思う。

そんなモエレ沼公園を今一度きちんと見直しておきたいと思い、僕は一年前と同じように地下鉄とバスを乗り継いで行った。最寄りのバス停に着いて公園の入り口を通ってしばらく歩くと、目の前にふと円錐状のモエレ山が現れた。一年前に見た時は雪に覆われていて闇に浮かぶ無機質な建造物のようだった記憶があるが、この日はその青々とした佇まいと手前の紅葉した木々との対比の美しさに感動した。

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一年前は積雪のためにほとんど公園内を巡ることはできなかったが、改めて歩いてみると実に広大な敷地の中に山や木々、オブジェが整然と配置されており、一年前に僕が見たのは公園全体の本当にごく一部だったことが分かった。そして公園には、犬を散歩させている人、カップルでデートに来ている人、ランニングをしている人、外国人観光客の団体、親子連れ、女友達の二人組などがいて、当たり前だが世の中にはたくさん人がいるのだと思った。一年前はこうして季節や時間が変われば見えるものも変わることを想像する余裕も無く、大分追い詰められていたのだろうと思う。それと比べて今は想像力を持つ大事さを知ったつもりだし、それを持てる余裕も少しは出来たと思う。そして今こうして、世の中には気付かないだけで実は美しいものがあることや、世の中は自分が思っているより広いことや、世の中には自分が思っているよりたくさんの人がいることを想像できるようになった。2時間ほどかけて公園内を歩き尽くして、そろそろ空港へ向かおうと思い出口へ向かっている途中で、橋の上から遠くの方にきれいな虹がかかっているのが見えた。その虹に「生きてりゃなんとかなるよ」と言われているような気がした。

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新千歳空港に早めに着いたので、前日に買えなかった“びえいのコーンぱん”を自分用に並んで買った。帰りの飛行機はまたふるぱちさんと同じ便だった。一年前の札幌は少し苦い思い出だったが、今回はそれを良い思い出に更新できた楽しい遠征だった。

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今回の47都道府県ツアー中に色々と考えることはあったが、ここ最近思うのはやっぱり好きな人のことは素直に愛したいということだ。

僕とあなたが全てを分かり合えなくても、だからといって僕とあなたが一緒にいられないということではなくて、その先にある一緒に歌える歌を探していきたい。

とはいえ改めて日本一だと思えるライブを魅せてくれて、こんなに素敵な笑顔を見せてくれる人を好きにならない訳がない。

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大森靖子こそ僕の人生の希望だ。