2017年の僕を構成する10曲

2017年も残り1ヶ月を切ったところで、少し早いが今年の音楽に関する個人的な振り返りを、この一年間にリリースされた作品の中から特に思い入れのある10曲を選びつつ書き綴ってみたいと思う。ほとんど自分のための備忘録のようなもので、以下は概ね音源がリリースされた順としており、あえて順位は付けていない。

 

1. The xx - On Hold

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UKの3人組のバンドThe xxの3rdアルバム「I See You」からの楽曲。The xxは2009年のデビューから一貫したクールでミニマルな音楽スタイルで、10年足らずで世界各地のフェスのヘッドライナーを務めるほどの人気と地位を確立している。今年フジロックに3度目の出演を果たし、今回は一番大きなグリーンステージのトリ前に登場した。2010年のレッドマーキーと2013年のホワイトステージでのライブを見た時は、共に期待値を上げすぎたこともあり正直物足りなさを感じてしまったのだが、今年は見違えるほどスケール感が大きくなっていて、とても素晴らしいライブだった。

メンバーであるJamie SmithがJamie xx名義で行なっているソロプロジェクトも含め、また今後の活動が楽しみだ。

以下は2015年にリリースされたJamie xxの「In Colour」に収録されている“Gosh”

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2. Dirty Projectors - Cool Your Heart

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USのDirty Projectorsによるセルフタイトルアルバム「Dirty Projectors」からの楽曲。Dirty Projectorsは少し前まで男女混合の大所帯バンドだったが、突如リーダーであるDavid Longstrethのソロプロジェクトとなった。また、今作は彼がかつてバンドメンバーだった女性との破局を経て制作されたという背景があり、その経験が“Cool Your Heart”をはじめ“Keep Your Name”“Up In Hudson”“Little Bubble”といった実験的でありながらキャッチーで人間の温もりを感じる優れた楽曲の数々に結実したのだと思うと、彼の才能に敬服すると同時に人としてもファンになった。先に挙げた4曲と次に紹介する大森靖子さんの「kitixxxgaia」は今年上半期の仕事が忙しい時期にひたすら聴いていた記憶がある。

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3. 大森靖子 - アナログシンコペーション

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冒頭で順位は付けないと書いたが、もし順位を付けるとしたら間違いなく2017年のベストアルバム第1位は大森靖子さんが3月にリリースした「kitixxxgaia」(読みはキチガイア)だ。個人的には大森靖子さんがこれまで発表してきた音源の中で全体的な完成度は最も高いと思っている。何より特徴的なのは収録曲のバラエティの豊富さだ。インストゥルメンタルバンドのfox capture plan、神聖かまってちゃんのの子、アイドルグループゆるめるモ!のあの、今や米津玄師や岡村靖幸とのコラボで一躍時の人となったDAOKOとコラボレーションした楽曲や、今年解散したアイドルグループ℃-uteに提供した“夢幻クライマックス”のセルフカバー、他にも既にシングルとしてリリースされていた楽曲や今作のために書き下ろされた新曲が収められている。そしてそのどれもが主役級の完成度で捨て曲が一切無く、まさに持てる力を全て注ぎ込んだといえる渾身の作品となっている。個人的に好きな曲はその時々によって変わるが、アルバムリリース時に好きでよく聴いていたのが終盤に収められている“アナログシンコペーション”という曲だ。その入れ込み具合はただこの一曲についてだけひたすら歌詞分析をしたブログを書いたほどである。

nagai0128.hatenadiary.jp

ただ大森靖子さんのすごいところは、これだけ全力を出し尽くしたと思える傑作を世に放ってからわずか半年足らずで、後ほど紹介する“draw (A) drow”や“わたしみ”、“流星ヘブン”といった名曲を次々と生み出してしまう恐ろしいほどの才能と飽くなき創作意欲である。

 

4. 欅坂46 - 不協和音

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昨年のデビュー曲“サイレントマジョリティー”でアイドルシーンに革命ともいうべき衝撃と共に現れた欅坂46の4thシングル「不協和音」からの楽曲。その後に発売された1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」にも収録されており、ヒーローの格好良さに対して抱くワクワクした憧れのようなものを感じてとても好きな曲だ。

欅坂46はあらゆる点で魅力的なグループで、ハマるととことんハマってしまいそうなのが怖くて現場に行くことはせず、音源を聴くだけに止めていたのだが、今年のサマーソニックで初めて生でライブを見る機会があった。ライブは楽曲・衣装・ダンスが高いレベルで見事に調和しており、期待を遥かに上回るエンターテイメントショーだった。今まで見てきたアイドルは一体何だったのだと思わされるほどオリジナルで圧倒的なライブで、特に “エキセントリック”の独創的なパフォーマンスは感動すら覚えた。

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5. Kendric Lamar - HUMBLE.

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今やUSのラップシーンにおける最重要人物の一人となったKendric Lamarの最新アルバム「DAMN.」からの楽曲。YouTubeの再生回数は文字通り桁違いで、今度の第60回グラミー賞でも数多くの部門にノミネートされている。僕はラップやR&Bなどのブラックミュージックはそこまで詳しくないのだが、2010年代に出てきたこのKendrick LamarやFrank Ocean、Chance The Rapperはジャンルの枠にとらわれない音楽性の高さがあり、注目している。昨年Chance The Rapperがリリースした「Coloring Book」もとても好きで、今年になってからも仕事の作業用BGMとしてひたすら聴いていた。

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Kendrick Lamarは2013年のフジロックでホワイトステージに出演しているが、来年のフジロックサマーソニックにヘッドライナーとして出演するのではないかと予想している。Frank OceanとChance The Rapperはあまり来日しないような気がするが、もし機会があればぜひ一度ライブパフォーマンスを見てみたいと思う。

 

6. Have a Nice Day! - Fantastic Drag feat. 大森靖子

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東京のアンダーグラウンドシーンで精力的に活動を続けているハバナイことHave a Nice Day!が今年6月にリリースしたシングル「Fantastic Drag」に収録された、先ほども紹介した大森靖子さんをフィーチャリングした楽曲。このコラボが実現したのは、昨年5月に新宿タワーレコードで行われた大森靖子さんの「TOKYO BLACK HOLE」というアルバムのリリースイベントにハバナイのフロントマンである浅見北斗が足を運び、ライブ後に大森靖子さんと会話を交わしたのが最初のきっかけだと思われる。僕はその少し前からハバナイにハマってライブに通っており、大森靖子さんもアルバム表題曲の“TOKYO BLACK HOLE”を聴いて心を鷲掴みにされて現場に通い始めた頃だったので、そんな二人が出会ったことに当時とてもワクワクしたのを覚えている。それから約1年でコラボ曲の制作、そして今年7月に「Fantastic Drag」のリリースパーティーとしてTSUTAYA O-EASTで2マンライブを開催するまでに至ったのは、個人的にとても嬉しいことだった。その2マンでライブとしては初めて“Fantastic Drag feat. 大森靖子”が披露され、その後も11月の渋谷WWWでのMaison book girl with カオティック・スピードキングとの2マンライブと川崎クラブチッタでのロフトフェスでも披露されている。毎回大森靖子さんと浅見さんが同じステージに立って歌うのを見て得も言われぬエモーショナルな気持ちになるのだが、それは今後二人がこの曲をライブで共演する機会はもうそれほど多くないのだろうという諦めと寂しさも感じるからだと思う。

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7. Lorde - Green Light

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ニュージーランドの若き女性シンガーソングライターによる2ndアルバム「Melodorama」からの楽曲。デビュー曲の“Royals”が世界的なブームを巻き起こして10代にしてグラミー賞を受賞し、その後に出演した2014年のフジロックレッドマーキーでのステージは個人的にその年のベストアクトだった。そして今年2度目の出演となるフジロックでは大出世して一番大きなグリーンステージに登場した。ステージ奥にバックバンドはいたものの、ほぼ一人で数万人を収容できるグリーンステージの空間を完全に制圧しており、ラストで披露した“Green Light”は今年見た中で最も感動的で圧巻のパフォーマンスの一つだった。

まだ弱冠21歳(フジロック出演時は20歳)というのが信じ難いが、今後が末恐ろしくも楽しみなアーティストである。

 

8. 大森靖子 - draw (A) drow

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先ほど紹介した「kitixxxgaia」のアルバムタイトルを冠して大森靖子さんが今年6月から行った全国ツアー「2017 LIVE TOUR "kitixxxgaia"」(以下、kitixxxgaiaツアー)の開始直前にリリースが発表され、8月に発売されたのがシングル「draw (A) drow」(読みはドローアドロー)だ。タイトル曲の“draw (A) drow”は凛として時雨のTKが作曲・編曲・プロデュースを手がけており、演奏にはドラムに同じく凛として時雨ピエール中野、ベースには元NUMBER GIRL中尾憲太郎が参加している。

正式なライブでの初披露は7月20日の東京ZEPP Diver Cityでのkitixxxgaiaツアーファイナルだと思うが、実はその前にとあるライブでゲリラ的に披露されており、そこで初めて聴いた時に凛として時雨のような疾走感溢れる演奏にTKさんではなく大森靖子さんの突き刺すような高音のボーカルが乗っかるのがたまらなく格好良く、全身の毛が逆立つのを感じたことを覚えている。音源の初解禁はラジオで、CD発売まではそれを録音したのをひたすら繰り返し聴いていた。また、大森靖子さんは昨年の10月から今年の9月まで東海ラジオで「LIFESTYLE MUSIC 929」というラジオ番組のパーソナリティを務めていたのだが、kitixxxgaiaツアー終了後に番組に自分のツアーの感想と共に“draw (A) drow”の弾き語りリクエストを送ったらそれを採用して下さり、しかもその時の弾語りが初演奏だったらしく個人的にとても嬉しい出来事だった。

 

9. 大森靖子 - わたしみ

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先ほど紹介したシングル「draw (A) drow」の2曲目に収録されている楽曲。リード曲である“draw (A) drow”の歌詞はTKさんのリクエストにより大森靖子さんが自分と向き合って書いたものだと言っていたが、この“わたしみ”もまた別の角度から自身の内面を投影した曲となっている。MVでの大森靖子さんと周りの風景の息を飲むような美しさは初めて見た時に茫然としてしまったほどだ。アルバム「kitixxxgaia」では自らを「神様」とまで言ってのけていた大森靖子さんが、その約半年後のシングル「draw (A) drow」では一転して自分自身を「人間」としてとことん見つめ、それを曲に描き出したという点において、全く違ったアプローチで生み出した作品といえる。少し前にラジオか何かで「曲毎に違う役割を持っていて、曲毎に作り方を変えている」といった主旨のことを言っていたが、そういった視点や方法の転換ができるからこそ、大森靖子さんの曲には一つとして似たものがないのだと思う。

なお、シングル「draw (A) drow」の3曲目には欅坂46の“サイレントマジョリティー”のカバーが収録されている。

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この曲に関して大森靖子さんは「サイレントマジョリティーを地で行く人 is 私」と自認しており、収録されたカバーでは曲を自らの血肉にするが如く、オリジナルのようにクールに淡々と歌うのではなく祈るように絞り上げるような声で歌い、曲の雰囲気もクラムボンのミトさんのアレンジによりガラリと違ったものになっている。

 

10. 大森靖子 - 流星ヘブン

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アルバム「kitixxxgaia」とシングル「draw (A) drow」に続き、9月にリリースされた今年2枚目となるアルバム「MUTEKI」に新曲として収録された楽曲。このアルバムは少し変わった構成で、“流星ヘブン”を含む冒頭の2曲のみ新曲で、残り18曲が既存の楽曲を弾語り主体で再録したベスト“的”アルバムとなっている。“流星ヘブン”について、大森靖子さんはラジオで「自分の基礎的な、根底的な部分を大事にした曲」「自分の生き方の曲」と語っており、前シングルと同様に「自分」がテーマとなっているものの、「draw (A) drow」の収録曲とはまた違った聴き手への訴え方をする曲である。

僕は“draw (A) drow”“わたしみ”“流星ヘブン”の「自分」シリーズ3部作(と勝手に名付けている。“サイレントマジョリティー”も含めれば4部作)を聴きながら歌詞を読む度に、まだ僕自身がきちんと自分に向き合えていないことに気付かされる。そして自分自身と向き合えていない僕は、自分自身と向き合っている大森靖子さんと向き合うことができてないということ、そしてそれは大森靖子さんの音楽と向き合うことができていないということではないか、という考えに至り、一人で勝手に病んでいた時期があったのだが、それは9月に川崎で開催されたベイキャンプでの大森靖子さんのバンドセットのライブを見て少し和らいだのと、“流星ヘブン”の「消えてしまう前の私に一瞬でもいい追いついて」という歌詞を「今すぐじゃなくてもいつか自分自身と向き合えるようになれればいいよ」と言ってくれていると捉えることで折り合いをつけることができた。

現在大森靖子さんは最新アルバムをひっさげた全国ツアー「超歌手大森靖子 MUTEKI弾語りツアー」の真っ最中である。ここまで10曲挙げてきたのをご覧いただければ分かるとおり、日本では僕の中で大森靖子さんはまさに無敵状態で、今回のツアーも行ける限り行って一回でも多くそのライブを目撃したいと思っている。もし大森靖子さんのライブを見たことがない方で、何かの縁でこのブログをご覧いただいている方がいらっしゃれば、ぜひ一度ライブに足を運んでみていただきたいと思う。以下の動画は公式に公開されている現時点で最新のライブ映像で、毎年大森靖子さんが自分の生誕祭として開催しているライブのものだ。この日のライブは今のところ僕の中で今年のベストである。

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2017年は好きなアーティストが素晴らしい作品やライブを届けてくれた充実した一年で、残り1ヶ月もまだまだライブに行く予定があり楽しみだ。ただ、邦楽洋楽共に常に最低限のアンテナは張っているつもりだが、今年は新しくて面白い出会いがほとんど無かったので、2018年はもっと積極的に開拓していきたいと思っている。来年の今頃に同じように10曲選んだ時にどのような顔ぶれになるのかと思うと今からワクワクするし、来年も素晴らしい音楽があれば僕は生きのばしていくことができそうだ。